2012年10月30日

テラミスティカ(Terra Mystica / Jens Drogemuller, Helge Ostertag / Feuerland Spiele / 2012)

はじめに
毎年10月にドイツの地方都市エッセンで開催されるボードゲーム・カードゲームの一大イベント「エッセンシュピール」。
開催に合わせて数多くの新作が発表されるのですが、その中で大きな話題となった作品のひとつに「テラミスティカ」がある。
テンデイズゲームズでは、いち早くメーカーとコンタクトを取り、取り扱いを決めていたところ、今回の人気。会場でも大きな注文がメーカーに入ったようで、すぐにリプリントを決めたものの、それまではやや入手しづらいだろうとのこと。
そんなタイトルを、日本で紹介できるだけでも嬉しいのだけれど、すでに欲しいと思ってくださっている方が多いようで、問い合わせもすでに数件。
「レビューを読みたい」との話を聞いたこともあり、今回、久しぶりにレビューをお届けすることにした。

「テラミスティカ」を(無理があるのは知りつつも)一言で表すとしたら「非常にリッチなユーロゲーム」というところだろうか。
ゲームシステムからして、陣取り、ワーカープレイスメント、リソースマネージメント、建物のグレードアップやタイル獲得による拡大再生産的要素・・・と、とにかく今人気のシステムをこれでもか!と盛り込んだ感がある。
また、このゲームはさまざまな勢力間の争いを描いたゲームなのだが、用意された勢力は14種。なんと、そのすべてに個別の特殊能力や種族によっては個別の収入バランスが設定されているのだ。
もちろん、それらのシステムを表現するために用意された駒やボード、タイルの数も多く、箱にぎっしり詰まっている。
このあたりは、昨年から今年にかけて、そのスケール感と充実のコンポーネント、マルチゲームを遊びやすく仕上げた完成度で大きな話題となった「エクリプス」にも通じるものがある。

もちろん、さまざまなシステムがうまく組み上げられ、コンポーネントが充実していれば、それすなわち「優れたタイトル」とはならない。
やはり、遊んで面白いか、熱いか、興奮するか。
「テラミスティカ」は、この点でも大いに優れている。

システム
では、続いて、具体的にシステムを掘り下げていってみよう。
「テラミスティカ」の勝利条件は、「6ラウンド終了後、もっとも高得点を取っている」という、実に素直なものだ。
その勝利に向けてプレイヤーは、各ラウンド、収入を得て、8つのアクションを行っていく。
まず、収入を見てみよう。
「テラミスティカ」で収入として得られるリソースは、労働者、コイン、司祭、パワーの4つ。
それぞれ、さまざまなアクションを実行するためのコストとして支払われることになるのだが、「テラミスティカ」において多くの場合、複数のリソースを組み合わせて支払うことになるため、リソース管理は非常に悩ましいものとなる。
そして、これらリソースの中でももっとも特徴的なものが「パワー」だろう。
この「パワー」を示す駒は、ゲーム開始時に受け取るだけで、ゲーム中に増えることはない。
では、収入として得た「パワー」はどうなるのか?
「パワー」は蓄積されていくのだ。精製される、質があがると言ってもいいかもしれない。
この「パワー」は、それぞれのプレイヤーが個別に持つボード上に描かれたトレイに置かれているのだが、このトレイは3つ用意され、コストとして支払うことができるのはトレイ3に置かれた「パワー」のみなのだ。
そのためには、トレイ1にある「パワー」をトレイ2へ、トレイ2にある「パワー」をトレイ3へと移していく必要がある。これを収入を得ることで行っていくのだ。
この「パワー」のマネージメントは、単に得ればいいということで終わって終わらず、独特な思考が要求されることになる。

さて、こうして得たリソースをアクションで使っていくことになる。
用意されたアクションは8つ。個別に紹介してみよう。

アクション1:地形の変換と建設
このアクションは、「テラミスティカ」において「陣取り」的な要素を担うものになる。プレイヤーは、ボード上に住居を建てることで、へクスを自分のものとし、また、住居からの収入を得られるようになる。
この時、土地の地形が重要になる。それぞれの勢力ごとに対応する地形でないと住居を建てることができないからだ。
もし、対応する地形でない場合、それを変換する必要がある。変換には当然コストがかかるため、どの地形に住居を建てるかの選択は非常に重要だろう。
もちろん、ほかのプレイヤーの動向次第では、多少無理をしてでも大胆な地形の変換をしなければならないこともあるから悩ましい。

アクション2:船舶の改良
「テラミスティカ」のゲームボード上の地形に「河川」というものがある。
プレイヤーは、この河川を越えて住居を建設することはできない。
それを可能にするのが、この「船舶」だ。
また、ゲーム終了時の連続した土地を持っていることで得られるボーナス点を獲得するためにはかかせない能力となる。

アクション3:鋤の変換効率の上昇
アクション1において土地の変換を行うためのコストを大幅に軽減するのが、この変換効率の上昇だ。
土地の変換のコストが少なくて済むということは、それだけ進出する土地の選択の幅が広がることになり、戦略的に優位に立てるだろう。また、付随して獲得できる得点も高めに設定されている。
ただし、このアクション自体のコストは当然高め。しっかりと状況を見極め、計画的に行わなければ、逆に苦しむことになるだろう。

アクション4:建造物の改良
アクション1で建てた住居を交易所へ、そして交易所を砦や神殿、聖域などに建て替えるのがこのアクションだ。
交易所を建てればコインの収入が増え、砦を建てれば勢力ごとの特別な収入やアクションが選べるようになり、神殿や聖域は司祭をもたらし恩恵タイルによりプレイヤーの収入や得点、アクションを底上げしてくれるようになる。
どのように改良していくかで、その後に選択できるアクション自体が変わる場合もあるのだから、非常に重要なアクションといえるだろう。「拡大再生産」的な要素を担っていると言える。
また、加えて重要な要素として、ほかのプレイヤーにもたらすパワーがある。
住居の建設や、建造物の改良が行われたへクスに隣接するへクスに建造物を建てていたプレイヤーは、それらの建造物からパワーを得ることができる。
ようするに、ほかのプレイヤーに隣接するように建造物を建てるということは自分の手を進めることができるのだ。しかし、もちろん、陣取り的な要素を多分に含んだゲームであるため、足並みを揃えて、とは当然いかないだろう。

アクション5:修道会への司祭の派遣
ゲーム終了時に得られる最終ボーナス点に「教団からの得点」というものがある。
「テラミスティカ」には4つの教団があり、それぞれの教団ごとに用意されたトラックにおいて、どれだけ自分の駒を進めているか、その順位によって大きなボーナス点が得られるのだ。
そのトラックを進めるために自分の司祭を修道会へ派遣するのがこのアクションとなる。また、ラウンドごとに特別な収入となる教団ボーナスというものが用意されており、指定されている教団のトラックを進めているほどに大きなボーナスが獲得できる。

アクション6:パワーアクション
ゲームボード上に描かれたいくつかのアクション。
これらのアクションをパワーを支払うことで行う。
それぞれのアクションは各ラウンドで一度しか選択することができないため、ほかのプレイヤーの動向を見ながら、的確に選択していかないと肝心なところで選択できないということになってしまう。「ワーカープレイスメント」的な要素を担っているアクションだ。
また、リソースについて触れたところで述べたように、パワーには独特なマネージメントが求められるため、その組み立ても考慮しなければならないだろう。

アクション7:特別アクション
パワーアクションと同様に各ラウンド一度だけ選択することのできるアクションが、この「特別アクション」だ。
砦を建てることや、恩恵タイル、各ラウンドでそれぞれのプレイヤーが一枚だけ持てるボーナスカードなどにより、特別アクションを選択できるようになる。
砦を建てることで特別アクションが選択できるようになるならゲーム開始時からそれを踏まえた戦略をとる必要があるだろうし、恩恵タイルの選択でうまく自分の戦略に沿った特別アクションを得られるならば大きなアドバンテージとなるだろう。

アクション8:パスと新たなスタートプレイヤー
アクション1〜アクション7までを選択する必要がない、リソースが減ってしまい選択できない、そういったプレイヤーはパスをして一時的にゲームから抜ける。
全プレイヤーがパスを行ったところで、ラウンド終了だ。
そのラウンドで最初にパスをしたプレイヤーが、次のラウンドでのスタートプレイヤーとなる。
また、パスをした時点で、持っているボーナスカードを返却し、新たなボーナスカードを選び取る。
このボーナスカードは、次のラウンドでの収入を増やしたり、特別アクションをもたらしたりしてくれる。このボーナスカードは、どのカードもやや強めの設定となっているため、その選択はかなり重要だろう。

これらのアクションを繰り返し行い、6ラウンドを行っていく。
このアクション以外にも、各ラウンドごとに特定の状況でボーナス点をもたらす得点タイルや、自分の建造物を隣接するように集中的に建てることで得られる町タイルなどが用意されており、非常に考えることは多い。
そして、ゲーム終了時に最終ボーナスを得て、勝者が決定する。

まとめ
まだまだ紹介しきれてはいないのだが、ある程度、システムを紹介させていただいたところで、私なりに「テラミスティカ」評をまとめてみたい。
ここまで読み進めていただいていればおわかりだと思うが、「テラミスティカ」の要素は、実に多い。
マネージメントしなければならないリソースの種類は多いし、恩恵タイルで得られるものも多彩なため広がりもある、ルールの細かい部分、枝葉的なところも多い。
しかし、決して遊びにくいということはなく、このボリュームにしては遊びやすく、そのリッチさを存分に味わうことができるというのが「テラミスティカ」の大きな魅力だろう。
では、どういうところが遊びやすいのか。

たとえば、勢力ごとに戦略の道筋が立てやすく、見通しがいいということがある。
「テラミスティカ」に出てくる勢力ごとの差は、(もちろんファーストプレイから、というわけではないが)実にわかりやすい。
陣取り的な駆け引きをするにしても、ある勢力は土地の変換で優位に立て、またある勢力は離れたところに土地を広げることに長けている。
リソースのマネージメントにしても、パワーがぐるぐると回るものものあれば、労働者駒には困らないものもいる。
これらの特徴をしっかりとつかむことで、おのずと戦略の道筋が見えてくるのだ。
だからと言って、底が浅いということは決してない。
ほかのプレイヤーよりも先に押さえなければならない土地を巡る攻防や、どのタイミングでアクションを選択するか、最終ボーナスを見据えた司祭の派遣などなど、ほかのプレイヤーとの絡みや駆け引きも十分に用意されているため、先読みや臨機応変さも大いに求められるからだ。
自分の戦略を進めつつの、ほかのプレイヤーとの駆け引きは実に気持ちのいい興奮を味わわせてくれる。

遊びやすさのポイントはほかにもある。
「テラミスティカ」は、ゲーム進行中にネガティブな要素がほとんど出てこない。
ペナルティを食らうこともなければ、リソースが半減させられたり、建造物が壊れてしまうなんてことは一切おきない。
各プレイヤーの選択は、常にポジティブ方向にはたらくのだ。
苦しい展開を用意し、いわゆる「カツカツ感」というものが面白さの中心に据えられたゲームは非常に多い。ギリギリのところでリソースをやりくりし、うまく自分の戦略通りにゲームが展開したときの興奮はたまらないものがある。
しかし、その選択によっては、返しきれないほどの借金を追ったり、ゲーム中、ずっと手元にマイナス点が書かれたカードを持つことになる。この辛さを厳しく感じる人も多いはずだ。
「テラミスティカ」では、どういった選択を行っても大きなダメージを負うことがないため、プレイヤーは、自分の思うがままにゲームを進めても大きな満足感を得られるはずだ。
もちろん、安易なアクション選択や適当な建造物の建設ができるほどは甘くないが、たくさん入ってくるリソースをどのように使っていくか、それを考えているだけで自然と心は躍る。

「テラミスティカ」は、遊んでいて本当に気持ちがいい。
過剰とも言えるほど、さまざまな要素やシステムを丁寧に組み上げたゲームは、最近、非常に多い。
要素が増えていくと遊び甲斐は増すものの、遊びにくさも増してしまうのは仕方のないことだろう。
それをできるだけ遊びやすくするというのは、ゲームの完成度を決める上で重要なポイントとなる。
要素を減らしたり、システムの一部を簡略化していくという方法はもちろんある。
しかし、「テラミスティカ」はまったく違う形で完成度を高めたと言える。
盛り込めるだけの要素を盛り込み、さまざまなシステムをいくつも組み合わせつつ、「気持ちよさ」をプレイヤーに提供することで、「遊びやすい」とプレイヤーに感じさせることに成功しているのだ。
これは新しい方法論だと言えるだろう。

デザイナーの力量はもちろんのこと、メーカーのデベロップ力がゲーム製作において重要度を増している。
「テラミスティカ」は、おそらく、気の遠くなるような回数のテストプレイを重ねたのではないだろうか。
そして、そのデベロップに、数多くの人気タイトルでおなじみのウヴェ・ローゼンベルクが関わっているという。そのウヴェ・ローゼンベルクが、苦しいゲーム展開を求められる「アグリコラ」を作り、それから数年後に、この「テラミスティカ」に携わっていることは非常に興味深い。
「気持ちよさ」という感覚的な部分に訴えかけるこの「テラミスティカ」というタイトルは、おそらくそれらが組み合わさったことによる賜物だろうし、もしその想像が誤りだとしても、そういったバックボーンをいろいろと想像させる「強さ」や「自信」を感じさせるタイトルであることには違いない。

「テラミスティカ」は、間違いなく2012年〜2013年を代表するタイトルになるだろう。
posted by タナカマ at 06:12| Comment(0) | TrackBack(0) | ゲームレビュー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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